領収証



  「ノド乾いたな…」


近くにあったコンビニに寄りました。
別に自動販売機でもいいんですけど、駐車場も大きくて停めやすかったので、あまり深いことは考えずにそこのコンビニを選んだんです。


隣町のコンビニですが初めて入った店です。ですけどコンビニなんて商品の陳列はどこも対して変わりませんから、一目散にジュース売り場に向かいます。コーヒーとは名ばかりの甘い茶色い液体が入ったペットボトルを手に持ち、レジへと持って行きました。


  「いらっしゃいませ」


下を向いて財布を開きながら若い女の子の声を聞いて、「感じのイイ子だな…」とか思ってました。
あいにく小銭が足らずに千円札を出してその子の方を見てお金を渡します。


  「あ、」


そこで初めてレジに立つアルバイトの女の子を見たんです。いや、拝む、拝見する、何て言ったらいいのか、


かわいい んです。


かわいいって言葉だけで表現するのは全然足りない。綺麗、美しい、どことなく神々しささえ感じる。薄く化粧をしているのだけれど「化ける」のではなく、その子の持つ元々の美しさを際だたせるための化粧。絶妙な配置で並ぶ顔のパーツ、目、鼻、口、等は全体としても美しいのはもちろん、単体としても絵になる。誰かが意図して作ってもこんなに美しく出来るだろうか?


どうしてだろう?何故だろう?恥ずかしくて彼女の顔を凝視出来ない。むしろ目をそらしてしまう。心の動揺を見透かされてしまうかのように感じる。年甲斐もなく心臓の鼓動が高鳴る感じがして、「俺、今、顔が紅くなってやしないか?」と気になる。


おつりを受け取るために右手を彼女の方に伸ばすと、彼女はその左手を俺の右手の下にやさしく添えて、右手に持ったおつりをそっと落とす。手入れの行き届いた爪がチラリと見える。「清らか」という言葉はこの手のためにあるんだろうか?


おつりを握った手を戻しながら妄想が始まる……



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何か一言交わしたい。なんでもいい。出来れば形に残したい。今後に繋がるものがいい。
メアド?赤外線?そんなこと出来ない。「メアド教えてください」なんてどのツラ下げてこのオヤジが言うんだ。そもそも赤外線通信のやり方なんて知らない。俺の学生時代は手紙だった。朝、登校すると下駄箱にかわいい便せんに入った手紙があるのを毎日期待したものだ。


でも目の前の若い彼女は手紙なんて書いたことがあるだろうか?最近は年賀状もメールで済ませてしまうらしい。そんな子なんだろうか?いや、きっと違う。季節ごとの挨拶を便せんにしたため、世話になっている人々に送っているに違いない。あの清らかな手にペンを持って書いているに違いない。高校に入学したお祝いの時におじいちゃんにプレゼントして貰ったそのペンで、おじいちゃんにはもちろん、おばあちゃん、卒業して会わなくなった学校の先生、この前子供が産まれた親戚のお姉ちゃん…、みんなに手紙を書いているだろう。


どうしようか?


考える。考える。考えるのは苦手だけれど必死だ。なんとか彼女の書いた手紙が欲しい。それがただのメモでもいい。


  「領収証、もらえますか?」


これしかない。他に思い付かない。その領収証を彼女の書いた手紙と思おう。


  「領収証…ですか?」


怪訝な顔をしてる。そりゃそうだ、コーヒー1本で領収証なんて貰うヤツなんてほとんどいないだろう。当然の反応だ。


  「会社名を教えていただけますか?」


ここだ。アピールするのはここだ。そもそも会社に出す領収証じゃないんだから、会社名なんてどうでもいいんだ。でも、彼女からの手紙を特別なものにするには……



  「『好きです 株式会社』 って入れて下さい」


  「え?」


彼女の書いた「好きです」の文字。いきさつはおかしいかも知れないけど、俺のために「好きです」って書いたことは事実だ。それに、これで俺の想い、あなたに好意を持っているんですよ、と言う俺の想いは伝わるだろう。出来れば彼女の想いも知りたいところだけどそれは欲張り過ぎか…。


  「株式会社、って書いた方がいいですか?」


  「あ、(株)で、いいですよ」


そこはどうでもいいから、重要なのは「好きです」のところだから。




ふと、思い直す。


もしかして俺、今、「キモイ」ってやつか?



よくよく考えたら気持ち悪いよな…。コーヒー1本買って「好きです」って書いてくれって…。ハッキリと変態だよな。薄々自覚はあったんだけど、変態だよな。「今日さ〜、バイト先でウザイ変態がいてさ〜、キモくてキモくて…」って事になるよな。「好きです」の文字が欲しかったばっかりに「今後に繋がる」を忘れてるよな。


どうしよう…。


今さら取り返せないし、無かったことには出来ない。どうしようか…。思い直して自分の行動を恥じる。巻き戻したい時間。この場から早く立ち去りたい。


  「ハイ、ありがとうございました」


きっと「変態っ!」っと吐き捨てたかったであろう客に最上の笑顔を振りまく。その場から逃げ出したかった俺は領収証をひったくるように受け取り、自動ドアを飛び出る。自動ドアが反応するまでの数秒がやたら長い。


早足で車に戻り、ドカッとシートに沈み込む。


  「やっちまった…」


もうこのコンビニには来られないな。なにやってんだ俺は、いい大人だろうが…。


領収証を開いてみる。「好きです」と書かれているだろうか。きっと「二度と来るなっ!」とか書いてあるんだろうなぁ。


  「!!!」


「好きです」って書いてある。なんかすごく嬉しい。
「好きです(株)」って書いてある。すごく嬉しい。


違う、「好きです(株)」じゃないっ!!



  「好きです(Loveラ ヴ)」



えっ!、ま まさか、片想いじゃないってことかっ!!


振り返ってガラス越しに彼女を見ると忙しく接客をしている。後ろで縛った髪を揺らしながらさっきと変わらず働いている。彼女が着るとコンビニの制服もまた違ったものに見えるから不思議だ。



今、引き返すのは野暮だよな。お互いの気持ちは確認してあるんだから焦る事はない。また今度、近いうちに来よう。その時は…。




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ただの妄想、安上がりな趣味です。







さて


この妄想は現実にはなりませんが、
これから 今年最大の妄想を現実にしてきます









行くぞ、 オラっ!!